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自宅のテーブルの上で来栖輝は先程から落ち着きなくそわそわしていた。
なんとなく気持ちを落ち着かせようとテレビのチャンネルを変えるも、それほど面白い番組はやってない。
…否、それ以前に気持ちが既にテレビから離れて居ると言ってもいいだろう。
その原因は彼の背後…キッチンから聞こえてくる鼻歌の主にあった。
「…真那ったら、本当に大丈夫かな…。」
そんな呟きを繰り返したのは、何度目か既に判らない。
外から帰ってくるなり大量の材料を満面の笑みで買い物袋いっぱいに運んできた所までは、
それほど「いつもの事」だと気にもしなかった。
カレンダーの日付は2月13日。そう、明日は世間一般で言う所のバレンタインデー。
世の若者達を中心に、何かしらチョコレートと色恋に纏わる話題で沸き立つこの時期。
例外に漏れずお菓子作りが趣味の自分もまた、友人や世話になった人達にチョコ菓子を送っているし、
彼の妹である来栖真那もまた友人たちとチョコレートを交換し合ったりしては楽しんでいる。
最も、彼女の場合最初から最後まで自分が補佐もとい監視してなければ非常に大変な事になってしまうのだが。
故に今年も愛用のエプロンをつけて、彼女の居るキッチンへと入ろうとした …所までは例年通りだった。
「あ、ごめんアニキ! ちょっと今年はアタシ一人でやってみるんだよ!」
この一言と一緒に、何か大きなヒビが入ったような音が聞こえる事を除いては。
そしてそんなやり取りの後、必死になって止めに入ろうとする自分の心を無理矢理抑え込見続けて3時間ほど。
「できたーっ!!」
無邪気な歓声が聞こえて来た瞬間、青年の体をびくっと震える。
そして恐る恐るキッチンの方を向く。 …うん、大丈夫。 今回はキッチンは壊れて無い…。
まずはその事に少しばかり安堵するが油断はまだ出来ない。
何せ今回は彼女一人で最後までやったのだ。ここまで来れば何か過保護と言われそうだが、その実それは決して過度の心配では無い。
一歩間違えば物理的に色々危ない事態になってしまう事を知っているのは、ほとんど居ないだろう。
非常にバクバクとする胸を抑えながら、兄はおそるおそるキッチンを覗きこんだ…。
「ど…どう? できたー?」
「あ、お待たせなんだよー。 ほらほら見て!」
じゃーん!と両手一杯の大皿に乗せられたそれを見て、思わず息を呑んだ。
形は非常にシンプルなハート型のクッキーがいくつもある。
生地を作って型を使って切り取り、それを焼き上げると言う至ってオーソドックスな其れ。
「す…すごい…すごいよ真那!! ここまでホントに一人で出来たんだ…!!」
「ふっふー♪ 当然なんだよ! あたしだってアニキと一緒だったとは言え、何回も作って来たんだからさぁ。…って、アニキ?」
えっへん!と言わんばかりに胸を張る彼女に対し、兄は感極まった様子で涙を流して居た。
常に料理をすれば壊滅的な事件になっていた自分の妹が、まさかこれほど立派にクッキーを作れるようになっていたとは思っても無かったから。
「ご、ごめんね。」と数度シャツの腕で涙を拭って、それから兄もまた「よく頑張ったね」と妹の頭を撫でた。
「取りあえずハイこれアニキの分! たっくさん入れて置いたからいっぱい食べるといいんだよー。」
「うん、うん。 勿論。 ちゃんと味わって食べるね…!」
そんなやり取りにまたも感極まってしまいそうになりながら。
早速と言わんばかりにクッキーを一枚、さくりと口に入れた――。
「(嗚呼…。天国の母さん。真那は立派に成長してます…―――。)」
「ねーねー、お母さん。 さっき救急隊の人達が凄い剣幕で人を運んでたけど何かあったのかなー?」
「救急隊…? あら、ホント。 …救急車…誰か倒れたのかしら…?」
<結末は爆発だけとは限らない>
書いてみたらひどいオチだった。