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ちょっとした昔話と、現在と。
すんすんと鼻を鳴らしながら玄関先でうずくまっている、
赤いランドセル姿を彼女が見つけたのは夕刻の事だった。
どうしたの?と聞いてみると、クラスの男子達と喧嘩したらしい。
「まーた、あいつらか。 ったく、何回懲らしめても懲りねえんだからもー。」
座敷で苛々とした声音が響く。
対して、当事者である目の前の少女は貝の様にくちを噤んだまま。
ただ悔しげにも見え、悲しげにも見える表情を映す。
そんな妹の様子を見遣りつつも、彼女はその手でぺたぺたと薬を塗っていく。
「…やっぱり、髪切った方がいいのかな」
口数も少なくなり、姉もだんまりを始めようとした所だった。
もう一つの小さな唇が不意に、そんな言葉を漏らした。
どうして?と尋ねると「いっつもひっぱられて嫌なんだもん」と言う言葉が返ってくる。
「…でもハルは長い方がいいんでしょ? お母さんとお揃いが良いって伸ばして来たじゃん。」
「…うん。」
3兄妹の中で唯一、目の前に少女は母親に似たらしい。
黒髪である自分とは違う、茶色くて長い髪が揺れる。
「じゃあそのままでいいじゃん。…いざって時は、またねーちゃんが追い払ってやるから。」
「うん…でも、ずーっとは無理なんでしょ…? …学校だって、違うよ…。」
「う……まぁ、それはそうだけど。」
もっともな言葉で突かれて、思わず言葉が詰まる。
「私、みんなみたいに強く無いもん。 …お稽古だって、いっつもついていけてないもん…。」
「…アレはいろんな意味で容赦の無いじーちゃん達が悪い…。」
姉が声を弾ませたのは一言目。
妹が声を堕ち込ませたのは二言目。
そして重ねた三言目で、またお互いにだんまりになる。
「…やっぱり、髪切った方がいいのかな。」
四言目で、とうとう妹はその顔を自分の両膝に埋めた。
そんな様子を見て、ただ姉の方も頬を掻くしか出来なかった。
いつもは大事そうに櫛でといているその髪が、これでもかと言う位にぼさぼさになっている。
よっぽど、それくらい、色々と、今日は、…派手に喧嘩してショックだったのだろう。
「あー…どうしたもんかなー…。」
ただ時間だけが再び過ぎようとする中で、不意に右手に巻き付けてた白いシュシュを見る。
ちらと、それと妹の髪を一瞥するように見つめて、その口元が楽しげに動いた。
「…じゃあさー」
しゅるり。
手首から短い布擦れの音をさせて――。
「いっそ、髪型でも変えてみる?」
「…ふぇ…?」
膝小僧から顔を上げた妹に、満面の笑みを姉は見せて居た。
「…って言う事が切欠で、この髪型にしたんです。これなら簡単に後ろから引っ張られたりしないだろー、って。」
「ええ、何時も付けてるシュシュも、その時にお姉ちゃんから貰ったんです。」
「あれからもう随分使って来たんですけど…仕舞うにはちょっともったいなさ過ぎて。」
「だから、お手入れしながらずーっと使って来たんですよね……。 あ、ごめんなさい。」
一人だけ喋り過ぎですね…と、椅子に座ったまま苦笑が零れる。
先程から髪に櫛を入れられたり、そのまま撫でられたりする感触に何処か、
くすぐったさを覚えて両手を擦りながら。
「…その、私の髪どうかな…。 上手く手入れしているかって聞かれると…あんまり自信は持てないんですけど、も。」
「髪のお手入れ難しいですものね。 桃先輩みたいに、もっと詳しくなれたらとは思いますけど。」
「あはは…。 じゃあ今度…二人で色々教えて貰いに行きます?」
それが切欠でちょっとは自信がつくかなあ、なんて――。
「でも手入れだけじゃなくて、陽音さんはもっと色んな髪型に挑戦すればいいとひかは思うですよ。(にこー)」
「…え? えっと…うん。 じゃあちょっとだけならいい…かな…。」
そんな頼りなさげな答えに「お約束ですね!」と引っ張られながら、
再び友人に自分の髪を委ねる昼休みは、もう少しだけ続いて行く――。
実はただ後半の妄想を形にしたかっただけと言うオチです。
(しかも全力で無断過ぎる…。)
他所様のお方をトレスするのって難しいですね…!(ツッコミは受け付ける心意気)(…)