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この施設に、違う。…この町に通うようになって数週間が過ぎた。
未だに原理どころか正体すら掴めない自分の力を巡って、とうとう外部に協力を仰いだのが始まりで。
連れてこられた「神都市」は異能者を受け入れる為の街でもあると言う。
当然、自分が居る町に構えて居た施設よりも遥かに異能者に対する理解や研究は進んでいる。
だけども、当時まだ幼かった僕はそんな事情をあまり理解して無かった。
隣町から、週に何度かのその病院兼研究所に通院する毎日。
途中でそんな日々にも飽きて、研究所から借りて来た図巻や簡単な科学の本なんかを待ち時間に読むのが日課になった。
唯一、お気に入りの場所として見つけた中庭で。
誰にも邪魔されずに、ひっそりと、こっそりと。 ただ好奇心に任せて本を読む。 それだけ。
ただそれだけの自分だけの時間。 …自分だけの『いつも通り』に、なる筈だった。
この施設で、あの子と出会うまでは。
「……」
「(にこにこ。)」
満面の笑みを浮かべたその子から、両手いっぱいに掴まれたチョコとスナック菓子の袋が向けられる。
傍から見ればとても愛らしくも見えるその笑顔は、こちらの返答が良い物であると確信しての物か。
…逆を言えば、「食べないなんて言わないよね?」と有無を言わさない物が見えている気がする。
「…ゆーちゃん、それは明らかに二人分の量じゃないと思う。」
「えー、そうかなー? だってさっくんだって男の子だから、これくらい食べれるでしょー?」
一杯食べないと大きくなれないよ!
そんな定番の文句まで重ねながら、押しつけられるように貰ったチョコレート。
板チョコ一枚って、割と食べるのに苦労すると思う。
「…僕こんなに食べれないよ。 それにお菓子ばっかり食べてると体に悪いって…。」
「そんなことないよ!だって疲れた時には甘いものがいいって私、聞いたもん。」
だからほら!
再び押し付けられるように握らされた手の平に、今度はスナック菓子の袋が乗った。
どうしても、この子は僕にお菓子を食べさせたいらしい。
片や満面の笑みを浮かべて迫るあどけない表情。
片や眉を下げながらどうしようかと唸る困り顔。
それでも彼女が持ってきた量を見て「やっぱり――」と、言葉を重ねようとした時だった。
――ぐうう。
「…。」
「ほら、おなか空いてる。」
きょうは検査が終わるまで、ごはん食べちゃ駄目な日だったんでしょ?
何処か勝ち誇ったような声音を弾ませながら、今度は飴玉が渡される。
どうして知ってるの? と聞いたら「教えてもらった!」なんて答えが返ってきた。
「……」
「(にこにこ)」
結局その時もまた、僕が折れて。
沢山のお菓子と一緒に沢山のごみを、中庭で散らかす。
そんな光景が僕達にとっての『いつも通り』になっていた――。