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気ままな誰かが気の向くままに何かを書く場所。PBCサイト『真!学園戦国伝』に居る誰かの住処。
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『あの、さ。 …その、ちょっと勉強で判らない所があるんだけどー…?』

 


「判らない所? ふーん…珍しいっつーか、久々だなぁ…そっちからのヘルプ要請。」
『あ、あはは…そうかな…? というか、割とあたしの方が教えて貰っているような気もするんだけど、さ…?』
「またまた御冗談を。…教えて貰ってんの明らかに俺だと思うんだけどねぇ…。」

何処と無い苦笑が己から零れる。――それを聞いてた向こうもまた、受話器越しに苦笑いをしていた。
時期が時期であり、受験シーズンにもなればこう言う誘いを受けるのも珍しくは無い。

最も何処となく向こうの歯切れの悪さが引っかかったが、そんな疑問を少年は深くは考えようとしなかった。
誰かと勉強会をする事もまた恒例ではあったし、そもそも自身もそこまで物事を普段は深く考えるような性分ではなかった。


「ま、いいや。…んじゃ今から行くわ。 場所は何時もの所でいいよな? 図書館」
『…。』
「……おーい?」
『…え。あ…!? ご、ごめん。 えと…なんだっ、け…?』
「…取りあえず、大丈夫かお前…?」

まさかまた何か無理でもして疲れを貯めて居るのではないのだろうか。
どうも、歯切れの悪さといい挙動の不自然さといい…何処か可笑しいと感じた自身が、そういう結論に達するのに時間は掛からない。
訝しげな吐息が思わず少年の口から零れる。 それでも、当の向こうからそれらしい回答は帰ってこない。

「とにかく、疲れてんならあんまり無茶はするんじゃ――。」

実は余程悪いのか、それとも何か言いたくない事でもあるのか。
いずれにせよ沈黙に耐えかねた彼が受話器を片手にもう一度口を開いた時、ふと視線が捉えた物があった。
それは――。

「……あ。」

今時にしては珍しい、日めくり式のカレンダー。
赤いフォントで描かれた数字や文字の羅列は、今日が日曜日だと言う事の証でもある。
けれども、そんな事は終始どうでもよい事だった。 寧ろ気になったのはその日付なのだから。
そのカレンダーが指していた日にち、それは。

「……あー。」

――2月の、14日。

「…。」

沈黙が再び訪れる。今度は終始、会話の主導権を握っていた少年でさえも固まったまま。
気まずい、とまでは言えなくとも何処か会話が成り立ちにくい空気になってしまったのは事実だった。
膠着した雰囲気の中、刻まれるのは電話に映し出されている通話時間だけ。
無論いつもの事と言えば何時もの事だ。だが、そんな空気に耐え切れる程自身はまだ大人でも無い。
落ち着け。 ここは何時ものように何か話題にしやすい事にさりげなく話題を移すんだ。
走る焦りの中で、そう結論付けて尚もフル回転を続ける頭を通じてようやく開いた口。 そこから出てきた言葉が――。

「そ、そーいえば今日って確かバr『勉・強・会っ!!!!!!!』」

きーん。
擬音にすればそんな効果音だろう。酷く高音域な耳鳴りが、少年の耳を受話器越しに貫いていた。

 

――あの日から一ヶ月。


「(…焦りって怖いもんだよねぇ…ホントによ)」

ありありと浮かんだ過去の情景に苦笑いが隠せなかった。
まだ木枯らしが冷たかったあの季節に比べれば、随分と今は暖かくなった3月。
茶葉の目立っていた木々も、気が付けば色鮮やかな緑やほんのりとした薄桃色の色を付けて居る3月。
公園のベンチに腰掛けたまま、手の平には青くラッピングされたケースを見つめて、ほんの少し肩が上下に動いた。

「…アイツも――」

――こんな風に、悩んだりしてくれてたんだろうか。

ケースの中から微かに覗く藍色の万年筆と小さな白い羽ペンのシルエットが瞳に映る。
中身も、ラッピングされたリボンも何もかもが自分の手を加えた物ではないけれど。
それでも、ささやかでも良いからと考えて選んだ其れを見つめる度に胸の奥が何処か落ち着かないのは―――。


「…なーんてな。今更ガラでもねーや。」

呟きにも似た声。ただ、その表情には穏やかな花が咲く。
そうさ。確かに大変だったけど、嫌な事じゃあ無い。
両手で自分の頬を軽く叩いて、立ち上がる。――不意にこみ上げてきたのは欠伸と、そして背を伸ばしたいと言う欲求だった。
それは一種の武者震いじみた感覚の予兆なのか、それとも本当に本気で体が春風に身を委ねたがっているのか、今判断するのは難しい。
だったらいっそ、それがどっちなのか確かめてみるのも良いかもしれない。 手がポケットの中へと動くのは、遅く無かった。
 
「…あぁ、もしもし。今時間あるか? やー、ちょっと勉強で判らねー所があってさ。」

あの日と同じ、受話器越しの言葉。
違うのは、今度はお互いの立場が全く逆だと言う事。その事実を、果たして『彼女』は気付くんだろうか?
気付いたとすれば、どんな言葉を返してくれるんだろう――?

「(まぁ…どの道、やる事は変わらねーんだけどさ。)」


木漏れ日を浴びながら携帯電話を閉じて、少年は歩き出す。
――もう一度『ありがとう』と『大好き』の二つを、伝えに行く為に。

 

昼下がり。風向きがほんの少しずつ、変わっていく。
3月14日。 その日の天気予報は、晴れ時々荒れ模様だったと言う――。

~幕~
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