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気ままな誰かが気の向くままに何かを書く場所。PBCサイト『真!学園戦国伝』に居る誰かの住処。
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「振り出しに戻る」を踏んでしまったかのような。


「いでっ、いででででで!? ちょ、もういい!こ、これくらい平気だっつの…!?」
「うっさいなー、 いーからじっとしてるんだよ。 ちゃんと消毒しないまま、ばい菌入って酷くなりたくないでしょ?」

ぐりぐりと、消毒液のたっぷり染み込んだ脱脂綿を傷口に容赦なく少女は押しつけながら。痛みに抗おうとして体を捻らせる少年に眉を吊り上げた。
確かに傷口を消毒する作業と言うのは酷く面倒な作業だ。
しっかりと患部に消毒液を満遍なく染み込ませなければ効果は無いし、手当てをされている方に至っては、患部に消毒液が染みる際の痛みに耐えなけれならない。
ただ彼女の消毒の手際に関しては、些か文字通り「力を込め過ぎている感じ」がしなくもなかったのだが。
無論それは少女自身も自覚している。 ハッキリ言って傷を手当される事はあれど、誰かの手当てをするなんて滅多になかった。
それでも、やらないよりは遥かにマシだろう。…これでも自分なりに一生懸命やっている積りだ。 
だから少しくらいは我慢して貰うしかない。 例え段々と何か悲鳴が酷くなりつつあってもだ。 

そんな騒がしい様子が終始繰り返されているのは、ショッピング街に設置された交番の中。
所々に出来た傷口を包帯やバンソーコーで塞がれた少年が、そこで居心地が悪そうにそわそわしている様子は、ある意味誤解を招きそうな場面ではあった。
最も「人々が行き交う休日の往来で、騒ぎを起こしたら通行人の一人が交番に駆け込んだ」故の結果と言う意味なら、的を得ているとも言える。

結局あのまま何とか不良達を退ける事は出来た物の、6人全員を一遍に相手をした結果は骨身に染みる物だった。
こっちから殴りながらも、半ば四方八方からタコ殴りされていた状況では、頑丈さを自負する少年とて無傷で居られた筈もない。
理不尽な状況に本気で血の涙を流しかけて居たその有様は、思わず厳格で知られていたここに駐在する私服警官が同情を示した程だった。
――それでも、しっかりと最後はお説教を受ける羽目になったのだが。

「…にしても…てっきり俺は来栖が勝手にちょっかい出して追われてんのかと思ったんだけどよ。 まさか、こーいう理由があったとはねぇ…。」
「…す、すいません…。 本当に何とお詫びすればいいか…。」

事の顛末はこうだった。
少年の前で頭を下げて居る、聖ライラの女子制服に身を包んだこの平坂初音と言う少女は来栖真那の知り合いだという。
路地裏で偶然彼女を囲んで居た男達を見つけた真那は、彼女を逃がす為にわざと自分から挑溌をけしかけて、自ら囮になっていたと言う。
そして辿り着いたのが…そう、自分の所だったと。
何ともまぁ躊躇いも無く無茶をする。 この話を聞いた途端、思わず少年は複雑そうな顔を隠す事が出来なかった。

「いいさ。…そういう理由なら気にする必要はねーよ。 アンタは身の危険が迫ってたワケだし。
 …コイツ見たいにスリルとリスク満点の逃避行が出来るんならともかく。」
「いやー、そんなに褒めても何も出てこないんだよ~?」
「ほ・め・て・ね・ぇ・よ」
「!? いたっ!? どーしてそこでデコピンするんだよー!?」
「どうしても疑問に思うのなら自分の胸に手を当ててよーーーーっく考えてみなさい」
「! せ、セクハラ…っ!」
「だ・か・ら・ちげーよ!? そういう意味で言ったんじゃねぇっつの!?」

少年から見れば、当の騒ぎの発端は紛れもなく横でマイペースに笑っている後輩である。
もういい、これ以上は何か疲れてきた。――若干溜息の混じった深呼吸をして落ち着いた所で、上着に袖を通した。

「あ…その…もう、行かれるんですか…?」
「ん? ああ…俺の方はまだ用事が終わってないんでね。…いい加減、さっさと済ませてしまわねーと夜になっちまう。」
「用事…ですか?」

きょとん、とした表情で平坂が問い返す。
そこで思わず「しまった」、なんて呟いたのは少年の方だった。――向こうだって他意は無い。
どう説明しようか…。 後ろ頭に手を当てて、どうしたもんかと頭を捻る。

「…あ、えーと…まぁ、その…何て言っていいのy「ホワイトデーのプレゼント探してるんだってー」 そうそう、ホワイトデーの…って、ちょっと待てぇ!?」

しかしそんな徒労も、横に居た後輩によって打ち砕かれた。

「何? 別にいーじゃん。はつねちゃん、口は固いから言い振らしたりなんかしないんだよ? ねーっ?」
「…ほー、けどこの子の口が固くても、口が軽いお前が知ってたんじゃどの道、漏洩の可能性があるよねぇ…?」
「!? ちょ、いだっ!?いだだだだだ!? 頭痛い痛い!? か弱い乙女になんて事するんだよ!?」
「うっさい。本当にか弱い乙女は、いきなり人めがけてウレタンの槍を投げつけたりしねーんだよ反論は認めない」
「うわーん! おまわりさん、この人が暴力振るうー!」
「ちょ、それ有りかよ!? や、違う!違いますおまわりさん! こいつが勝手にちょっかい出して来ただけで…」
「あ、あの…喧嘩は止めてください…。」

半ば取っ組み合いに近いやり取りで喚く青春生二人と、それを見ておろおろする聖ライラの女子生徒が一人。
しかしそんな取っ組み合いも、向こうで大きく咳払いをした警官の声で収まる事になる。
何処かどっと疲労の溜まった顔で、少年は額に手を置いた時だった――。

「…あ、そうだ。 あの…高津先輩…でした、よね? その…一つ、お話があるんですが…」
「? …お話?」
「…ええ。 その、もしよろしければ…の、お話なんです…けど。」

おずおず、と言った感じで事の次第をさっきまで見守っていた彼女が手を挙げる。

「良ければ、私の家…もとい、ウチのお店にいらっしゃいませんか?」

 


からーん。
小気味の良い、カウベルの音が店内に響く。
案内されたそこには、花瓶や小さな箪笥と言った置物家具から、ちょっとした木彫りの人形だったりオブジェだったりが並んでいた。
雑貨屋「Green Wood」と言う店内看板の通り、都心の街中には珍しいログハウス風のレイアウトの店内を少年はしげしげと見つめる。

「なーるほどー。 そっか、そう言えば、はつねちゃんの家って雑貨屋さんだったんだよ。」
「うん。…まだ、開店したばっかりなんだけどね。 おじいちゃんとおばあちゃんが老後はこう言うお店やりたいって言ってたから」
「へぇ…そいつは中々、クールな話だな」

何処か嬉しそうな声で自分の家族の成功を語る少女の姿に、思わず少年もまた素直な感想を漏らす。
「お気に召す物があればいいんですけど…」と、語る平坂さんの声に後ろを向いたまま手を振った。


「…そう言えばさ、ヤマト先輩がホワイトデーに贈り物しようとしている人ってどんな人なのさ?」
「ま、真那ちゃん…それは幾ら何でも野暮なんじゃ…。」

不意に聞こえた、相反する声。振り向かないまま、アンティークの一つを手にしたまま少年の動きが止まる。
しばらくして、そこから何処か観念したように深呼吸する声が聞こえた。

「…そーだな。 一言で言えば…しっかりしてそうで、実は不器用な奴なんだと思う。」
「しっかりしてそうで…不器用?」
「ああ。なんつーか…いざって時に、人に甘えるのが下手と言うか…責任感が強すぎるタイプっつーか…ね。」

色んな意味でドツボにはまりやすいタイプだよなー…と、語る少年の口調も酷く楽しげだった。

「けど…だからなんだろうな。ほっとけないって思ったの。正直、俺の勝手な思い込みな部分もあったんだろーけど…。」

切欠と言えばそれが切欠だ。そう微かに細くなった少年の声が、しんと店内に流れる。

「今となっちゃ、そういう所も『アイツらしさ』に見えてくるから、時間っつーのは不思議だよなぁ…って――。」

はっとした時には、もう色々遅かった。
無意識のうちに語らなくてもいい所まで語ってしまった事の気恥ずかしさがこみ上げる。
後ろを向けば、片や非常に面白そうににやけている片や純粋に目をきらきらとさせている少女二人。
ごほんっ…! と、半ば蒸せたような咳で頭を振って再び品定めに没頭する。

「えー、もうちょっとお話聞かせてくれたっていーじゃん先輩ー。」
「や、さすがにこれ以上はキミのトモダチがオッシャッタ様にヤボダトオモウノデスガ」
「わ、私も聞きたいです…。」
「待てぇ!? さっきアンタ野暮だって言って止める方だったよな!? 何で速攻で付和雷同してんだよ!?」
「ふふん。 現役女子高生に恋バナ聞かせた時点で終わりなんだよ。 さぁ、大人しく洗いざらい吐けーいっ!!」
「あ、洗いざらい…吐けー…?」
「は、はははー? もしかして万事休すってこの事カナー…?」

夕立深くなる街の隅で、楽しげな少女達の声が木霊する。
――その裏で、ある種尋問近い聴取に耐えて居た少年の姿があった事は…誰の知る由も無い。

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